今年も恒例の『立川志の輔独演会 in 甲府2023』にて落語を楽しんできました。 毎回書いているかもしれませんが、僕にとって一年の経過を告げる貴重なイベントになっています。
初めての日曜開催・昼講演
今回は珍しく日曜日の開催かつ午後の明るい時間に開演の回となりました。
甲府での独演会にはこれまでに10数回ほど足を運んでいますが、少なくとも僕が通ってきた回に関してはいつも平日の夕方開演ばかりだったのでなかなか新鮮です。 開場を待っている時に吹き抜けた爽やかな風には秋の訪れが感じられました。
これまでに通った回数に関連して。 志の輔さんが枕の中で「甲府での独演会は1997年から始まった」とお話されていました。
ありがたいもので僕も10回(年)を超える数は聴かせてもらえているんだなぁといつも感慨にふけるのですが、まさかその倍以上の年数に及ぶ深い歴史があったとは知りませんでした。
これだけ長く開催を続けるのは並大抵の苦労でないであろうことは想像に難くありません。 とにかく頭が下がります。
なにとぞ今後とも一年に一度のお楽しみが続いてくれることを願うばかりです。 どうかチケットの取れやすさは据え置きで……(笑)。
印象に残っていることメモ
今回の独演会を聴いて印象に残ったことを書き残していこうと思います。 とはいえ最近よりポンコツに近づいた記憶力を振り絞って書いているのでおぼろげなところもあるかも。
今年の演目は下記の通りでした。(敬称略)
- 初音の鼓 – 志の大
- ちりとてちん – 志の輔
- 千両みかん – 志の輔
「千両みかん」は個人的に思い入れのある演目です。 というのも独演会に通いはじめの頃(もしかしたら初めての時?)に「落語ってこんなに面白いものなのかーッ!」とハマるきっかけになったのがまさにこの「千両みかん」なのでした。
同じ噺でも毎回違った面白さを味わわせてもらえるのが落語を聴くことの楽しいところ。 途中で登場した“バールのようなもの”というワードにはつい吹き出してしまいました。
AI技術の発展と、人の手からなる文化と
今回の枕では近ごろ巷を賑わせている「AI(人工知能)」に関する話題が登場しました。
このAI技術の発展により今までは人間が担っていた仕事もAIが代わりにやってくれるような時代が目の前に迫っています。 中には小学生が読書感想文などの宿題をAIに代筆させたなんて出来事もすでに起こっているのだとか。
そうやってまるで小学生が書いたような文体でも自在に再現できる人工知能の便利さの陰には「使われ方次第では人間の仕事を奪いかねない」危うさも見え隠れします。
これは文章に限らず写真やイラスト、音楽など様々なジャンルでも例外ではありません。 手作りのものと比べても遜色ないような作品をあっという間に作り出すAIもすでに登場しています。 少し前に米ハリウッドで脚本家組合・俳優組合が起こしたストライキでは「脚本家・俳優の仕事を奪うようなAIの使用の規制」も争点のひとつに含まれていたそうです。
そんな中で、はたして落語はどうなるのか……志の輔さんは「おそらく落語はそう簡単にAIに取って代わられることはないと思う」といった旨を笑いを交えつつ話してくれました。
着物など噺家のような見た目や噺のあらすじはそれらしく倣えるかもしれないが、落語における言葉の持つ奥深さ・幅広さを人工知能が理解するにはまだまだ時間がかかるだろう……というお話をされていたと思います。
僕個人の感想としてはやっぱりまだまだ人の手による作品を味わいたいし、人が話す落語を聴いていたい気持ちがあります。 しかし、これも将来さらに技術が発展してAIの存在が当たり前の世の中になったら考え方も変化するのでしょうか……。
趣味であるサブカルチャー界隈にも大きく影響することなので今後も動向には注目していくつもりです。
日本語の言葉が持つ奥深さ・幅広さ
上で挙げた言葉の奥深さ・幅広さについて、日本語は外国語と比べて一つの対象を表す単語がいくつもあり、それによって表現に奥深さ・幅広さが生まれていると話されていました。
例えば、自分を表す言葉は英語では「I」だが日本語では「私・俺・僕・わし・拙者・おいどん……」など無数にある。 相手を指す言葉も英語では「You」、日本語では「あなた・君・お前・貴様・てめえ……」など、こちらも同様。
落語で会話を表現する際、玄関先で「はいはい、どなたで……あ、あなた様でしたか!」と言えば目上の人が訪れたとわかるし、同じシチュエーションでも「はいはい、どなた……なんだ、お前かぁ」なら気心の知れた間柄だと察せられる。
選ぶ言葉一つで聞き手に伝わる情報や印象が変わるところに日本語の奥深さや幅広さがあるとのことでした。
枕を聴くのも楽しみの一つでありまして
今回は枕から演目に入るまでの時間が例年より長く感じられました。 正確にタイマーで測ったわけではないのであくまで体感ですけれども。
枕ではいくつも小噺が登場したのが印象的でした。 話し方が変わって「おっ、本題に入った!」と思ったのも束の間、また枕の話題が再開されたりして。 今まであまり聴いたことのない展開で楽しかったです。
ちなみにこの「入った!」と感じる瞬間がすごく好きなんですよね。 劇的な変化ではなく、あくまでも滑らかに落語の世界に入っていっていることに気付かされる感じというのが何とも心地良くて。
メインとなる各演目はもちろんのこと、枕ではどんなことを話されるのだろうかとワクワクしながら耳を傾けるのも毎回の楽しみになっています。
人が操る言葉の妙を噛み締めて
今回の独演会も笑いどころたっぷりで大満足な内容でした。
笑いだけでなく枕で触れられていた「人が話す言葉の魅力」についても考えさせられましたし、それを噛み締めながら楽しませてもらえた時間は枯れかけた心に活力を与えてくれたように感じています。
いまだに感染者数が減らないコロナウィルス流行に加えて今年は類をみぬ異常気象に季節外れのインフルエンザ……。 あまりにもカオスな状況に外出する気力も出ない日々においては大げさじゃなく一服の清涼剤となってくれました。 感謝以外の言葉が見つかりません、ホントに。
上でも書いたように今後とも末永く続いてくれることを願い、来年も元気に楽しめるよう「笑う門には福来る」と念じながら、またいつもの日常に戻ろうと思います。
外部リンク
◆ 志の輔らくごウェブサイト – 公式サイト
◆ ざぶとん亭風流企画 – 公式サイト