少女マンガの黄金期を築いた漫画家・萩尾望都先生のSF作品に着目した原画展『萩尾望都SF原画展〜宇宙にあそび、異世界にはばたく〜』が山梨県立美術館へ巡回してきたので足を運びました。 マンガに疎い僕でも強く心惹かれるイラストの数々に大満足な展覧会でした。
デビュー50周年を迎え今なお第一線で活躍する漫画家
漫画家・萩尾望都先生は少女漫画界におけるSF作品の大家として知られ、デビュー50周年を迎えた現在も新たな作品を世に送り出すなど第一線で活躍されています。
恥ずかしながら僕はマンガについてはあまり詳しくないのですが、それでも萩尾望都先生や作品群(『11人いる!』・『ポーの一族』など)の名前を耳にしたことがあるくらいなので、世間での人気の高さがうかがえます。
「SF」作品に的を絞った原画展
今回の展覧会はタイトルにもある通り、先生が今までに描かれてきた作品の中から「SF」に関連する作品に絞った展示内容となっていました。 そのため、『ポーの一族』や『トーマの心臓』などの作品については展示がありません。(見終わって気付きました)
今回の展覧会をきっかけに、タイトルでしか知らなかった先生の作品をぜひ読んでみようと思い『11人いる!』に触れてみたのですが、読み進める手が止められなくなるほど面白かったです。
そして、いざ展示された作品原画の前に立った時には、ため息が漏れてしまうほど感嘆してしばらく目を離すことができませんでした。 可能であれば時間の許す限り、じっくりと見つめていたくなるほどの魅力がありました。
マンガ原稿(原画)がメイン。カラー絵も見応えバツグン。
展示内容は当時連載されたマンガ作品の原稿が主で、加えてマンガの扉絵やレコードジャケット・文庫本の挿画といったカラーイラストの原画が展示されていました。
作品は年代別にまとめられており、展覧会の入り口から出口にかけて、作者が歩んできた画業の変遷をたどることができる構成となっています。
先生は今年でデビュー50周年ということで、これまでに非常に多くの作品を手がけられていますが、展示作品のどれをとっても時代を感じさせない作風で僕の目にはとても新鮮な魅力に満ちていました。
これも「SF」という“宇宙”や“近未来”を描いた作品であることも一つの要因なのだろうか、と想像させられます。
「アナログ」のもつ魅力に圧倒される
他の漫画家さんの原画展を観に行った時にも体感したことですが、やっぱりアナログな画材で描かれた原画が放つ魅力には圧倒されました。
透けて見える下書きの線や修正液の跡、スクリーントーンの微かな厚み……など、作品が人の手によってたしかに生み出されたのだということを僕らに教えてくれる創作の足跡は、製本されたものとはまた違った魅力を感じさせてくれます。
PCを使ったデジタル作画も多くなってきている現代でも、あえて紙とペンで作品を作る意義というのはこういった部分に強く現れているなぁと考えさせられました。
鑑賞後、「萩尾望都トークショー」を観覧
原画展をたっぷりと楽しんだ後、お隣の山梨県立文学館で開催された萩尾望都先生のトークショーを観覧。 会場内の年齢層は原画展と同じく高めで、みんな童心にかえったように瞳を輝かせていたのが印象的でした。
トークショーは先生と司会者(美術館の学芸員さん)による一問一答形式で進められ、先生が描かれたSF作品に関するエピソードが多く語られました。
その中で「作品に登場するキャラクターや世界観は何を源にして生まれたか」といった旨の質問には「頭の中に浮かんだ妄想をもとにしている」と話されたのですが、その答えに作り手としての凄みのようなものが感じられます。
先生は学生の頃からアシモフやクラークといった作家のSF作品に夢中だったとのことで、それらが豊かな想像力を育んだ重要な基盤となっているのかもしれません。
会場で募った質問に対する回答も
そのほか、来場者から募った質問にも答えていただける時間もありました。 生活スケジュールやペットの名前など先生の身近に迫る質問も数多く寄せられたなか、「最近触れて面白かった作品」という質問で先生オススメの作品が挙げられていたのでメモしておきます。
『女王陛下のお気に入り』という映画と『イタリアン・シューズ』という海外文学という作品が面白かったとのことで、あらすじや魅力について熱く語られていました。 僕も機会を見つけて触れてみたいと思います。
《余談》 『漫勉』をもう一度観たくなった
今回の展覧会を観て、以前NHKで放送されたテレビ番組『浦沢直樹の漫勉』をもう一度観たくなってしまいました。
漫画家・浦沢直樹先生が毎回一人の漫画家さんと対談をするという内容で、萩尾望都先生が登場した回がありました。 番組は漫画家さんごとにDVD・ブルーレイ化、販売されています。
対談は萩尾望都先生がマンガ原稿を描いている最中の映像をお二人で観ながら行われるのですが、そのやりとりがとてもユーモラスで楽しかったことを先日のトークショーを聴いて思い出しました。
漫画家さんのペン運びや作業部屋の様子を知ることができる貴重な番組だったので、今になってやっぱりDVDを手に入れておこうかと頭を悩ませています(笑)