先日発売となった書籍『MOTHER2のひみつ。』を読みました。 まさに垂涎ものの資料がたっぷり詰まった内容に大興奮です。
30周年を迎えた『MOTHER2』開発当時の資料たっぷりな一冊
書籍『MOTHER2のひみつ。』は、ゲーム『MOTHER2 ギーグの逆襲』の開発資料や関連グッズの写真、インタビュー記事といった貴重な資料・証言によってゲーム完成に至るまでのウラ側を知ることができる一冊です。
2024年8月にゲーム発売30周年を記念して開かれたイベント「MOTHER2のひみつ。」にて展示されていた資料のみならず、そこでは展示しきれなかった初公開資料も加えられた豪華な図録のような趣で厚さは300ページ超え。 読み応えたっぷりです。
さらにゲームの開発に携わったスタッフ(大山功一さん・戸田昭吾さん・丸田康司さん)の座談会、シリーズの生みの親・糸井重里さんへのインタビューといった当時の開発現場を知る方々の生の声は必読の一言。 岩田聡さんの例のエピソードにも触れられていました。
《余談》 イベント会場の様子は動画にて観られるみたい(今のところ)
30周年記念イベントの会場内の様子は「ほぼ日刊イトイ新聞」公式YouTubeチャンネルに映像が残っているので、行くことができなかった自分も雰囲気を味わうことができました。
◆ 「MOTHER2のひみつ。」展示物の紹介と解説 – YouTube公式
本来なら門外不出であろう資料の数々
掲載されている開発資料はゲームになる前の初期構想メモをはじめ、主人公たちが訪れることになる町々の設定案や物語の流れをまとめた企画書、それを実際にゲームとして落とし込むための手書きのマップ案など、ゲームが出来上がるまでの変遷を追うように並んでいます。
そのどれもが我々ユーザーにとって普通はお目にかかれないような内容のものばかり。 まさに制作の舞台裏を垣間見たようで興奮しながら読み進めました。
開発された時代背景もあるのでしょうが、ほとんどの資料が紙に手書きの形で残されているところから当時の息づかいが感じられます。
資料には欄外に一言解説が添えられているので、どういった資料なのか、いつ・誰が書いた資料なのかがわかりやすかったです。
ゲームに採用されたアイデアもあればそうでないものあり、それらが“『MOTHER2』のかけら”として集まったりこぼれたりして最終的にあの灰色のカセットに結実したものが僕らがよく知る『MOTHER2』なんだなぁと感慨深くなりました。
《余談》 『MOTHER』の言葉ってやっぱりイイ
ゲームの序盤部分に登場するキャラクターのセリフは糸井重里さんが直筆で専用の用紙に書き起こしていたそうで、それも資料の一つとして掲載されています。 開発が進むにつれて糸井さんが口頭で話したセリフのアイデアを他のスタッフさんが書き留める形式に変わっていったのだとか。
そこに載っているキャラクターのセリフを眺めていて「やっぱり『MOTHER』に登場する言葉って独特の魅力があるなぁ」としみじみ思いました。
このあと久しぶりに『MOTHERのことば。』を引っ張り出して読みふけっちゃいましたよ。 シリーズ3作に登場するセリフやメッセージが網羅された書籍です、と説明するまでもないとは思いつつ補足。
関連グッズの写真に胸が高鳴る
開発資料以外にも当時作られた関連グッズの写真も載っています。 ゲーム発売当時のチラシやポスターだけでなく、ゲームショップの商品POPまで残っているのがスゴい。 (手書きされた¥9800のフォントからほとばしる平成感)
海外版(Earthbound)のパッケージやブックレットは初めて見ました。 販促物のほかにもスカジャンや関連書籍の写真まで載っていて懐かしいです。 穴が空くかってくらい攻略本や4コマを読みまくったあの頃……。
こういうのもまるで展覧会の図録のようで好きだったりします。
関係者の証言から開発現場の雰囲気に思いをはせる
この本で見逃せないのが開発関係者の証言が座談会・インタビューとして載っていることです。
開発スタッフの大山功一さん・戸田昭吾さん・丸田康司さんによる座談会では、それぞれが『MOTHER2』制作に参画されたきっかけや思い出深いエピソードが語られていて当時の開発環境やその場の雰囲気などをうかがい知ることができました。
時間感覚・季節感覚を失ってしまうような開発進行だったそうで、90年代ならではの時代感が見え隠れしています。 でも学園祭前日みたいな高揚感もあったりしたのでしょうか。 お話からはツラさより楽しげな空気を感じるのが印象的でした。
「開発室の隣では徹夜でモノポリー」などバイタリティあふれるエピソードの数々に注目です。 僕はハル研究所との共同開発時のエピソードにテンションが上がりました。
糸井さんへのインタビューは今回掲載された資料を前にゲーム開発当時のことを振り返っています。
資料を作成した当時の糸井さんを30年を経た現在の糸井さんが俯瞰して語っていらっしゃるような印象で、これも資料が大切に残されてきたからこそという感謝の思いが強まりました。 30年もの間これだけキレイな状態で開発資料が保管されているのって決して当たり前ではないですよね……?
記録にない口伝えのエピソードが大切に保管されてきた資料をもとに紐解かれ、あらためて書籍として形に残るというのはとても意義深いなと感じます。
“『MOTHER2』は、『MOTHER2』がぜんぶです。”
本を開いてまず目に入るページに「はじめに」と題して『MOTHER2のひみつ。』製作チームからのメッセージが掲載されています。
その中で、本に載っている「ゲームに採用されなかったアイデア」にロマンを感じ夢想することはファンとして最高の娯楽であると前置きしたうえで、その思いが大きくなりすぎて「本当はこうだった!」と決めつけてしまうことの危うさに触れられています。 それは発売された作品が未完成なもの、不完全なものと位置づけられてしまう可能性につながる、と。
そこからつづく、“『MOTHER2』は、『MOTHER2』がぜんぶです。 1994年8月27日に発売された作品がすべてです。”という言葉に襟を正さなくてはと強く感じました。
今回の『MOTHER2』に限った話でなく、自分が触れるあらゆる作品に対する姿勢として大切にしなくては。
作品愛が募るあまり、つい作り手の思いを置いてけぼりにして盛り上がってしまう……耳の痛い話です。 作品を尊重し自制できることはファンとして重要な課題ですね。 胸に刻みます。
30年経っても色褪せない『MOTHER』の魅力
発売から30年を経てもまだまだ新たな魅力に触れさせてくれることに感謝の念が堪えません。 この本だけでなくグッズも新たに追加され続けていますし。 スゴいことです、ホント。
読み終えた今、スタッフさんや糸井さんの「『MOTHER2』の開発は青春だった」という言葉が心に残っています。 完成までは大変なこともたくさんあっただろうけど、それぞれが良い思い出としてにこやかに振り返っているのがなんだかステキでした。
久しぶりにまたゲームで遊びたくなってきます。 何度遊んでも楽しいんですよね〜。 童心に返る感じもあれば、大人になったことで新たに感情移入できる部分も見つかったりして。
遊んだ僕にとっても『MOTHER2』はきっと青春です。
外部リンク
◆ MOTHERのおみせ – ほぼ日刊イトイ新聞
◆ いま『MOTHER』シリーズをプレイするためには? – ほぼ日刊イトイ新聞